信じる

私にはその言葉がお守りのように、そして目には見えないとても強い結界のように感じられた。

なんだろう、この安心感は。

歩く坂道も揺れる木々も、町ゆく人も駅も、部屋の天井でさえ、ここではやさしく光輝いているように見える。

本来鬱陶しく思う梅雨の足音がなぜか今年は心地よい。

 

 

私は今まで誰にも打ち明けなかった、幼い頃から持っている恐怖の話をした。

怖いものの話をするのはやっぱり怖い。

心から信頼していないとそんな話できない。

 

 

世の中、沢山のことが信頼で成り立っているけれど、あんまり普段そんなこと考えないよね。

美容師に安心して髪の毛を触らせるのも、飲食店で知らないおじさんが作ったご飯を食べられるのも………。

私は車を運転するとき、たまに思う。

みんな知らず知らずのうちに結構他人を信頼してるのだな。と。

信号が赤に変わったら横から車は突っ込んでこない。よくその常識を信頼して安心していられるなぁ。

 

私にはそういう弱さがある。

考えることを放棄できなくなる時があるのだ。

電車に乗っていれば隣の席の老人にいきなり刃物で刺されることを思うし、夜道を歩いていれば後ろからひったくりに会うことを考える。

そういう弱さが人を信頼出来なくさせているのだけれど、やっぱりこれはもう直せないし、だいたい直すことでも無いように思う。

 

 

誰も信じられなかったはずが、私はこの時恐怖の話をしていた。

話すことさえ怖い。年々恐怖が重みを増しているんだ。もうダメかもしれない。

いつその恐怖に見舞われるかと思うともう、ダメかもしれない。

 

 

 

「大丈夫だよ、絶対、そんなことあの場所では起こらないから」

 

 

 

私はこの街がとても好きになりそうだな。

夕日が差し込む駅のホームに座りながらそう思ったし、これは予言だ。

 

やさしさが空気をキラキラさせている。

周りで騒いでいる男子中学生が全然怖くないし、微笑ましい。

電車が近づくことを教える踏切の音もリズミカルで軽快だ。怖くない。

車窓に映された自分の顔も、前より確実にそれが自分として認識できる。

風が気持ちよかった。

町全体に結界が張り巡らされているんだ。だからきっと安心して生活ができるんだ。

だってこんなやさしい気持ち、感じたことないもの。

お気に入りの場所はきっと広がっていく。

それが私の強さになっていく。

人の言葉に助けられて、一歩ずつ歩いていくとき、爪先から私は色々なものを感じ取れるはずだ。

私もいずれお守りを渡せるようになりたい。

だから、どんどん歩いて行こう。